氷見の伝統産業「氷見針」
「天然の生け簀」といわれる氷見漁港を有し、食の宝庫として県内外でも知られている氷見。豊かな自然とその恵みだけではなく、かつて「針の三大産地」として名を馳せた一面があることをご存知だろうか。100年以上続く伝統産業「氷見針」である。中国から長崎に裁縫などで用いられる南京針が伝わったのが、今から700年ほど前。「氷見針」は長崎に伝わった中国針の技術を学び氷見に持ち帰ったとも、針の行商人が氷見に住み着いたことが始まりとも言われている。かつては広島や兵庫県の浜坂と肩を並べ国内の製針業を支えていた「氷見針」は、現在、同市の『ケンシン工業株式会社』がその技術を受け継ぎ、新たなカタチで注目されている。


製針業から現代のものづくりへ
大正7年頃に氷見市内にあった8軒ほどの製針工場は、第一次世界大戦の特需がなくなると1社と個人経営の2つだけに。その後に復活した会社も含め、昭和17年には市内の3社が統合して『ケンシン工業』の前身『富山県製針株式会社』を設立。昭和47年『ケンシン工業株式会社』に社名変更し、氷見最後の縫い針製造会社として新たなスタートをきった。針の需要が減少したことで自社生産は中止されたが、その技術をいかし現在は線材や建材を製造。高い精度が要求されるという、細く長い金属の表面を鏡のように磨く加工にも対応している。時代が進みつくるものが変わっても、培ってきた技術で現代のものづくりに応える会社として躍進を続けている。


「メイドイン氷見」を目指して
『ケンシン工業』では髪のお手入れに使う「つるかめ印のビューティーコーム」をはじめ、ペット専用コーム「ステンレスウッドコームわんにゃん」など、自社で製造・販売しているアイテムが注目を集めている。「氷見針」の伝統的な技術をもっといかしたいという熱意が開発のきっかけとなった。ピン部分はお手入れがしやすい反面、硬く加工が難しいステンレス素材。高い技術力をいかし鏡面研磨され、先端は半球状に磨かれている。そのピンの滑らかさによって摩擦を減らし、静電気が起きにくく他にはないくし通りを体感できる。先端の丸みは皮膚を傷つけず適度なマッサージ効果も生み出し、現代的な逸品となっている。



滑らかなくし通りを、大切な家族にも
販売イベントなどには制作スタッフも多数同席するという。お客さんと積極的に会話することで新たなアイディアや改善できるポイントを見つけ、社内で共有。そこで、「ペット用が欲しい」という声を聞いてわんにゃんコームが開発された。ペット専用コームもアンダーコートと呼ばれる毛が抜けすぎないよう歯の部分は2段階。研究を重ね、最初に完成した「つるかめ印のわんにゃんコーム」は毛並みによって標準タイプからあら目、細目と3種から選択できる。「ステンレスウッドコームわんにゃん」は標準タイプだが少し大きめで、さらに使いやすいデザインに。顔周りに嬉しい小さめのデザインも準備中だ。



挑戦を支えるものづくりへの想い
「氷見を象徴するアイテムにしたい」と話してくれたのは、代表取締役社長である飯田和男さん。ビューティーコームシリーズは「氷見針」の技術がいかされているだけではなく、氷見の特産品「ひみ里山杉」や県内産の木材を使用することにもこだわっている。本来、木材にピンをさすための小さな穴をあけると割れてしまうか曲がってしまう。飯田社長たちは新たに木材に関する知識を深め、試行錯誤のうえ金属加工技術を応用することでそれを実現。香りや手ざわりなど、木材の良さを最大限に引き出すことにも繋がった。受け継がれてきた技術とともに、ものづくりへの探求心とアイデアが挑戦を支えている。



