逆転の発想が生んだ錫製品
高岡は鋳物産業のあらゆる技術が集結した町だ。歴史の中で分業制が成り立ち、『能作』は100年以上にわたって鋳物の鋳造と研磨を続けている。ライフスタイルの変化で仏具や花器の需要が減るなか、20世紀が終わるころ能作克治社長は自社製品の企画を決意した。注目したのが「錫(すず)」。錫には柔らかいという特性があり、当時は合金にして使うのが常識と考えられていた。だが「錫100%で曲がる製品を創る」という逆転の発想が飛躍につながった。



本社工場で職人技と鋳物の面白さを伝える
5年前まで『能作』は地元の人が銅器団地と呼ぶ場所に工場があった。真鍮の溶解炉が真ん中に置かれ、錫の鋳造は工場の片隅で行われていた。逆転の発想から生まれた錫製の自社製品は、売り上げがうなぎのぼり。2017年春に高岡市オフィスパークに移転し製造ゾーンも明確に分けられた。新社屋には工場以外にもショップやカフェ、鋳物製作の体験スペースがあり、観光客も多く訪れる。高岡の伝統産業を伝える役割も果たしている。



高岡の職人技を世界に届ける
取材に訪れると、能作社長や専務の千春さんが繰り返し話してくれることがある。90年代に工場見学に訪れた母子のエピソードだ。子供と一緒に製造風景を眺めていた母親が「がんばって勉強しないと、ここにいるおじさんみたいになっちゃうわよ」と口にした。この言葉を耳にした『能作』の人たちは心を痛めた。現在『能作』の製品は、全国はおろか世界へと市場を拡大している。工場では、従業員が自信と誇りをもって働いている。



自宅で過ごす時間を楽しむ職人体験
おうち時間の充実を目的に考案された「鎚目キット – タンブラー」は、錫の柔らかさを実感できる体験型の製品だ。箱を開けるとタンブラーと製作用カップ、ハンマーが入っている。ハンマーをタンブラーに打ち付けながら跡(鎚目)を残すのだが、力の強さや鎚目の細かさによって出来上がりは千差万別。作業を見せてくれた職人さんが「カップの内側に指を置くと、しっかりとした鎚目を残せます。リズミカルに打つのがいいですね」と教えてくれた。



暮らしに寄り添い、愛される存在に
錫は熱伝導率が高いので、キンキンに冷えたドリンクを飲みたいときに使うのがおすすめ。抗菌性があり腐食や錆びることはほとんどなく、金属臭がないのもうれしい。近年、富山では『能作』の器や箸置きなどを使う飲食店や商業施設が増え、錫製品を目にする機会は年々増えている。また、同社の風鈴や酒器は贈り物の定番だ。生活の身近な場面に寄り添う存在として、これからも『能作』の錫製品は愛され続けていくのだろう。


<注意事項>
・鎚目を付ける際は、ハンマーの平らな面で叩かないでください。リズミカルに隙間なく叩き進めるときれいな鎚目になります。
・叩くことで変色が見受けられることがありますが、品質に影響はありません。
・融点が低いため、火気の近くに置かないでください。
・金属磨きやスチールたわし等でこすらないでください。
・酸味の強い飲食物を入れたままにすると変色のおそれがあるため、ご使用後はすぐに洗ってください。
・熱伝導率が高いため、熱いものを入れた際は器ごと熱くなります。やけどには十分ご注意ください。
・低温による変質や破損のおそれがあるため、冷凍庫には入れないでください。冷蔵庫での長時間の保管もお避けください。
・やわらかい素材のため、形を変化させることができますが、過度な屈伸は亀裂や破損の原因となるため、ご注意ください。
・形を変えるときに音がしますが、破損音ではありません。