ヒスイようかん

翡翠の町での出合い

富山の観光名所の一つ、朝日町の「ヒスイ海岸」は、砂ではなく小石が散りばめられている海岸が特徴。青や緑のきれいな色の石の中に、まれに翡翠(ひすい)の原石が混ざっていて、それを探しに海岸に来る人も少なくない。和菓子職人で『大むら菓子舗』の店主・大村邦夫さんがこの海岸で翡翠を見つけたのは40年ほど前のこと。片手で持つにはやや重たいほど、ずっしりとした立派な石だった。その石の美しさに魅了され、翡翠をイメージした和菓子を作ろうと決意した。

店主の大村邦夫さん
大村さんが拾った翡翠

翡翠を羊かんで表現

翡翠の様子を表すのにいきついたのは「羊かん」。石と同じ独特な透明感を出すにはちょうどよかった。拾った石と同じ色合いにするため、お茶などで緑色にした羊かんと、糸寒天とグラニュー糖を混ぜた白色の寒氷をあわせて「ヒスイ羊かん」が誕生した。見た目だけでなく、寒氷のシャリシャリとした食感で、石の硬さも表現している。バットに寒氷をしぼり模様を描いていくが、大村さんの感覚で描くため同じ模様がないのも、自然そのものという感じがしておもしろい。

緑と白の配色が美しい
刃の長い包丁と物差しを使いながら切り分ける
切り分けたときに異なる模様も楽しみのひとつ

手間暇かけてじっくりと作る

「ヒスイ羊かん」は、丸2日ほどかけて作られる。バットの寒氷が固まり、そこに羊かんを流し、一晩おいて冷まして乾燥させ、翌日にようやく一口大にカットされて店頭に並ぶ。羊かんそのものは、岐阜県の天草を100%使った糸寒天、白手亡(白いんげんの一種)で作る白あん、白双糖を火にかけて作られている。ほど良く弾力があり、上品な甘さに仕上がるように素材も厳選した。手間暇をかけてこその味わいと、きれいな見た目は手土産としても喜ばれ、北陸新幹線駅でも購入できる。

コンパクトにさまざまな器具が並ぶ
創業時から使う年代物の器具も
素材の糸寒天、白手亡、白双糖

和菓子への飽くなき探求心

季節を映した上生菓子は、上品な甘さと美しい見た目で茶道の先生もお墨付き。また、朝日町の笹川地区の銘菓「ほたる最中」や『林酒造』とのコラボ菓子の開発など、地域の和菓子屋としても変わらず愛されている。地元で店を開いてから60年以上が経ち、店主の邦夫さんは86歳を迎えた。それでも、和菓子の専門誌を毎月購読して、お菓子のアイデアや技術を吸収している。上品な味わいと繊細な見た目の和菓子は、飽くなき探求心の賜物と言える。

お茶会での注文も多い上生菓子
親子でこれからも味を繋いでいく