木製バットの郷・南砺市福光
2023年は、野球界が盛り上がった1年ではないだろうか。3月のWBCでの日本の優勝に始まり、夏の甲子園、国内外のプロ野球での日本人選手の活躍などの多くのニュースがあった。南砺市福光は、そんな日本の野球界を「木製バット」で支え続けている。福光の木製バット製造は、大正末期から始まり、今でも日本一の生産量を誇っている。なかでも、『エスオースポーツ工業』は、多くのプロ野球選手に愛用され続け、福光のバットを日本に広めてきた第一人者的な存在だ。
日本で数少ない、手削りのバット職人
バットを手で削って仕上げられる職人は、国内に10人もいない。その中の一人が、『エスオースポーツ工業』の中塚陸歩さんだ。自身もかつては高校球児で、卒業後に一度は会社に勤めたが「ものづくりに携わりたい」との想いが捨てられず、地元の兵庫県から福光に移住してバット職人になった。バットづくりは、技術はもちろん木材の目利きも重要になる。木材を仕入れても、すべてをバットにできるわけではなく、ひとまず削ってみて耐久性に強そうな最良のものだけが最終的にバットになる。ゆえに、木材がどうしても余ってしまうという悩みはつきものだ。
端材=余りもの ではない
バットにならない木材は、バットに適していないだけで、決して木材としての質が悪いわけではない。これまで、それらはチップにして燃料にしたり、中塚さんの趣味の工作に使ったりしながらも、さらなる使い道を常に探していた。そんななか、家具やアウトドア用品などの製造を行なう『bibibi』の福井翔太さんから声がかかった。福江さんは、小矢部市の木工職人でありながら、さまざまな「端材」を使い、それをデザインして商品に変える「ハザイナー」でもある。二人の出合いは、バット用の木材の可能性を大きく広げた。
バットから生まれ変わる「KATONBO」
二人の共同作品として生まれたのが、蚊取り線香ホルダーの「KATONBO」。線香のきれいな渦巻きからトンボを捕まえるときの動きを連想して、デザインに落とし込んだ。土台にはバットの端材が使われいる。黒い支柱の先端に重みかかっても倒れないよう、土台の木に緻密な設計と技術が詰まっている。バットの端材も形や用途を変えれば、木のぬくもりの伝わる素敵な木工品に仕上がる。今後はこのほかにもバットの端材を使ってさまざま商品を作る予定だ。