あんドーナツ

五箇山のご当地グルメ「羽馬パン」

観光の楽しみの一つに、その土地にしかない食べ物がある。それは、メディアや小売店を通じて全国的に知られるようになったものや、ある界隈でカリスマ的な人気を誇るものなどさまざまだ。世界遺産・五箇山には、「羽馬(はば)パン」として長い間地元を中心に愛されている「あんドーナツ」がある。今では、近隣の市町からわざわざ買いに来る人や、観光で訪れた人の手土産としての需要も高く、週末になればお店には人が絶えずやってくる。

羽馬パンとして親しまれている「あんドーナツ」
豊かな自然の中に店舗を構える

あんドーナツのはじまり

五箇山には、もち米と栃の実を蒸して、つき、あんこを包んだ「栃餅(とちもち)」という名物のお菓子がある。「あんドーナツ」を作る『羽馬製菓』は、創業時は和菓子屋で、当時からこの栃餅を作っていた。現在のようにパンづくりを始めたのは、地区唯一のパン屋が移転し、学校給食用のパンづくりを頼まれたのがきっかけだった。栃餅に使う自家製のあんこはパンに包むにはちょうどよく、「あんドーナツ」が作られるようになった。

先代が手作りした発酵部屋。炭火を熱源に、湯気で湿度を上げている
「あんドーナツ」以外にもいくつものパンを手作りしている

昔ながらの何個でも食べたくなる味

「あんドーナツ」は、昔ながらの製法で、一つひとつ手作業で作られる。生地をこねて、炭火を熱源に湯気で温度を上げる発酵部屋で発酵させ、あんこを詰めていく。北海道産の小豆100%で作ったあんこは、時代にあわせて少し甘さを抑えている。丸くなった生地をしっかりと乾かしてから、油にサッとくぐらせるほどに揚げ、きれいな焼き色が付いたドーナツが出来上がる。サクッとした軽い口当たりと程よい甘さが、何個でも食べたくなる味だ。

手作業で一つひとつにあんこを詰めていく
揚げるのは油をくぐらせる程度
シンプルながらも長年愛されている

特別なものは使っていない

50年以上愛されている商品だが、二代目の秀憲さんは「あんドーナツ」について「特別なものは使っていない」と控えめに話す。昔から変わらない五箇山のおいしい水と空気が、味を支え続けているそう。今では、近隣の道の駅や石川県のスーパーでも販売している一方で、地域や家族の集まりの際に、まとまった注文が入ることが今でもよくある。知名度が上がっても、これからも変わず地域に根付き、愛されていくことだろう。

まとまった注文にも対応
二大人気の「あんドーナツ:と「カレーパン」
飾り気のないおいしさが長年愛される所以