全国から人が集まる、おわらのまち八尾
東京からUターンして富山に戻ってきた頃、「おわら風の盆」を初めて訪れた。情緒的で風情あふれる音や踊りに一瞬で心を掴まれ、すっかりおわらファンになったことを今でも覚えている。それから定期的に訪れるようになった八尾町は人々の営みや暮らしが感じられる場所でもあり、おわらの時期でなくてもふらっと散策するのが楽しい。そして、おわら以外にも全国からたくさんのヒト・モノが集まり、ここならではの楽しみ方ができるお店『tadas』がある。
海外で見えた、着物の新しいスタイル
オーナーの原井紗友里さんが着物姿でテレビに出たことをきっかけに、全国各地から着物が集まるようになった。そんな中、海外出張の際に原井さんのお母様が着物でセットアップを仕立ててくれた。着物で日本文化をアピールしたいが、仕事で動き回るにはもう少し軽装なものをと、洋裁好きな母から娘への心遣い。そのセットアップの評判がとても良く、予想以上の反響があったことから、アップサイクル事業の立ち上げを決意したという。
モノの美しさを生かし、人の雇用を生み出す
SDGsをはじめとした”持続可能なもの”に注目が集まっているが、古くから日本には「いいものを長く使う」という考え方が根づいていると思う。捨てられるはずだったものを活用して新しい製品にアップグレードさせる「アップサイクル」は、その代表例ではないだろうか。『tadas』では着物をほどく作業を自立支援の施設にお願いをしたり、和裁や洋裁が得意な地域の女性たちが縫子さんをしていたりする。「人の雇用を生み出し、おわらのある八尾を守りたい」と原井さん。さまざまな世代が集う八尾のアトリエでは、楽しそうに作業をするママたちの姿があった。
お客さんからの要望に応えて誕生
『tadas』のお客さんはリピーターも多く、口コミで全国に広がっている。「ましかくエプロン」は、料理研究家のお客さんからのオーダーに応える流れで誕生した。正方形を斜めがけにしたシンプルな造りながら、アシンメトリーでおしゃれに。「シルクなので軽くて肌触りもいいですよ」と、実際に原井さんが着用した姿も。バイカラーで2種類の着物を組み合わせたタイプは、本サイト限定のスペシャルバージョンなので大切な人へのギフトに選びたい。
新しいカタチで次の世代へ送り出す
着物を持ち込んでのオーダーが半分以上を占め、毎週のように全国各地から着物が届くという。中には寄付をする人もいて、県内の人には運営しているカフェのコーヒーチケット、県外の人には寄付された着物であづま袋を作って送っている。おばあちゃんの着物など、思い入れのあるものを新しいカタチで送り出すことで、新たなストーリーを紡ぎはじめるキモノたち。日本には7億もの着物がタンスに眠っているそうで、宝物の価値を最大限に生かし、八尾に集まった多くの着物がアップサイクルされていく。 今回紹介した「ましかくエプロン」以外にも、アロハシャツやワンピースなど、着物の柄や生地の美しさを感じるアイテムが揃っており、定期的にアトリエに訪れたくなる。