CYCLEようかん

時代と地域性をつないだ、新作の羊羹が誕生

羊羹と聞くと、棹形が頭に浮かぶ。厚く切るのが喜ばれると思っていたが、2.4㎝幅がおすすめと書いてある本を読んでから、それを守ることにした。本には愛知の「初かつお」や北海道の「薄荷羊羹」など有名ご当地羊羹が紹介されていて、地域の歴史と羊羹の結びつきを想像するのがとても面白い。ロングセラー商品が目立つだけに新作ってなかなかないのだろうなと思っていたら、氷見の『松木菓子舗』から時代と地域性をつないだ羊羹が発売になった。

『松木菓子舗』は、能越自動車道•氷見ICから車で1分
2020年に「CYCLEようかん」が発売された

小さいから、ポケットに入れて持ち運べる

「CYCLEようかん」を考案したのは3代目の松木功太さん。自転車で地元を巡っていたときに休憩で甘いものがほしくなり「ポケットに入れて持ち運べる和菓子があったらいいな」と思い立ったという。氷見へ行くとロードバイクで走る自転車乗りをよく見かける。海岸線はもちろん里山へと標高が一気に上がる地形が、ストイックに自分を追い込む自転車乗りたちの心をつかんでいるようだ。サイクルスタンドが設置してある店や施設もたくさんある。

「CYCLEようかん」を手にした店主の松木功太さん
一口サイズに梱包された「CYCLEようかん」
氷見ではサイクルスタンドをよく見かける

人や環境へのやさしさを大切にする

羊羹を開発したのは手軽さと、〝和菓子はあんこ〟という想いが強かったから。「2,000年も続いてきた和菓子文化が好き。どれだけの人の気持ちが和菓子に託されてきたかを考えると素敵だなと思う」と松木さん。古典をなぞることはせず、継承されてきた文化を大切にしながら、今の時代に求められる和菓子を考えている。「お客さんにやさしく、環境に負荷をかけない和菓子作りをしたい」という言葉が、松木さんの和菓子との向き合い方そのものに思えた。

30歳を過ぎたころから、自分で和菓子を開発するようになった
新商品とともに、父の代から作り続ける和菓子が並ぶ

小豆の声を聞きながら、羊羹を作る

「CYCLEようかん」は、ミネラルを豊富に含んだ北海道産の甜菜糖という砂糖が使われている。銅鍋で砂糖を溶かしたら、こしあんを入れて硬さを調節するのだが、レシピはあってないようなもの。いい加減の硬さにするのが難しく「祖父や父のメモを何度も見ました。最終的には小豆の声ですね」と松木さん。疲れたときに食べることを考えて食感は柔らかめ。火を止めてから水飴と富山湾の海洋深層水塩を加えている。

レシピや数字通りでは、均一な味は作れないという
ちょうどいい硬さは、小豆が教えてくれる
松木さんが和菓子作りに使う材料

氷見への愛情と感謝を、和菓子に託す

和菓子屋に生まれたが、店を継ぐ気はなかった。しかし自分の歩む道を真剣に考えたとき、和菓子屋しかないと感じたという。高校卒業後に県外の大学へ進学し、働いたことは、今の仕事に大きく影響し「外に出たことが、氷見の素晴らしさを感じるきっかけを作ってくれた」と話す。氷見の素材をお菓子に使うことも多く、生産者の想いもお菓子にのせる。また贈る人の気持ちにも寄り添う。松木さんの姿は「和菓子は心」と改めて気づかせてくれるものだ。

パッケージのデザインはツール•ド•フランスの各賞のジャージに由来
コンパクトなので、切る手間がなく一度で食べきれるのも利点
容器に少量を流すという、手間のかかる作業を経て商品になる