糀漬

富山の発酵食文化

富山県の郷土料理「かぶらずし」は、塩漬けにしたかぶにブリなどの魚を挟み、糀でじっくり発酵させるなれずしの一種。富山県は、全国的にもこのような「発酵食文化」が根付いた県だとされている。これは、雪深い冬に保存食として重宝すること、高温多湿な気候が発酵に適していることなど、さまざまな要因があるが、とくに富山県の西部には、加賀藩に属していた石川県の食文化の影響で発展したとも考えられている。小矢部市の石動に店を構える『きばや食品』も発酵食である魚の糀漬けを主力商品としている。

郷土料理のかぶらずし
あいの風とやま鉄道「石動駅」から徒歩6分ほど

魚のプロが作る糀漬け

『きばや食品』は、元は鮮魚店として、魚の販売や仕出しを生業としていた。現代表の木場谷芳典さんのお祖父さんは、仕出しをしながら北前船で昆布と一緒に運ばれてくるニシンで「こんか漬け」を作っていた。福井県「へしこ」と同様のぬか漬けだ。それが今の加工品の製造・販売の始まり。当時はニシンだけだったが、徐々に魚の種類を増やし、サバやイワシ、フグなどを糀に漬け込むようになった。

鮮魚店として営業していたころの許可証
当時仕出しに使っていた木製のケース

半年間かけて発酵を進める

発酵食は、菌や微生物などの作用で食材の風味や食感に変化をつけるため、つくるのには時間がかかる。店頭に並ぶ「糀漬」が仕込まれるのは、半年ほど前。一度に100㎏分を仕込むこともある。ニシン、サバ、イワシなどの魚をまず1週間ほど塩漬けにする。こうして魚の水分を抜いておくことで、味が沁みやすくなるからだ。その後、県産の米ぬかと糀に漬け込み、半年間寝かせる。高温多湿な梅雨になると発酵がよく進む。

魚を塩漬けにして一度に仕込む
糀と米ぬかでしっかりと漬け込む
重石を載せて、あとは発酵するのを待つ

食べやすさの改良を重ねて

半年間漬け込んだ「糀漬」は、魚に塩気がしっかりと移り、ごはんのお供や酒の肴に最適。しかし、近年の健康志向の影響から、発酵食品としての「糀漬」により親しみを持ってもらえるよう、『きばや食品』では以前よりも糀の割合を増やすことで、少し塩味を抑えている。そのまま食べるのはもちろん、お茶漬けやおにぎりの具材として、ピザやパスタなどの洋食への応用もおすすめ。より万人に受ける味付けに変えたことで、県外からの来客も増え、発酵食を取り入れた暮らしは、これからも広がりそうだ。

発酵が進むことで食材の質を変える
さばの糀漬