四角

立山の町で紡がれるものづくり

気持ちの良い風が通る工房に、タンタンと銅板を叩く音が響き渡る。金属造形作家である釋永維さんの工房があるのは、北アルプス山脈の裾野に広がる立山町。430年以上の歴史を持ち、富山を代表する焼きもの「越中瀬戸焼」の技術が受け継がれる町でもある。窯元の家に生まれた釋永さんは20代の頃にジュエリーの会社『ミキモト装身具』に就職。原型制作に携わり彫金の技術を習得した後は、『金沢卯辰山工芸工房』の中で磨かれる感性と自身の持つ技術との調和を模索し、作品と向き合い続けている。

金属造形作家の釋永維さん
アトリエには、一つひとつ表情の違った作品が並ぶ

始まりは一枚の金属板

金属工芸は、鍛金、彫金、鋳金の3つの分類に分けることが出来る。釋永さんが用いるのは金属の板を叩いて制作する「鍛金」という技術。今まで培ってきた彫金の技術も活かし、銅や錫、真鍮などの素材から、金属が持つ従来のイメージを覆すような柔らかくしなやかな作品が生み出される。道具の当て金も、鉄を熱して自ら作り出す。少しでも想い描いた形に近づけるよう打ち付けるが、作業過程のなかで瞬間的な判断を迫られることもあるという。個展や展覧会を経験し訪れた人々との交流を通しても、また新たな作品への意識を高めていく。

金板を叩くことで形をつくり出す「鍛金」
リボン状の銅板を組み合わせるロウ付け作業
材料は余すことなく使う

軽やかで繊細な金属造形の世界

自然をテーマに表現することの多い釋永さんの作品。工房の壁面にも展示されている「風」は、まるで吹き抜けていくかのような軽やかな印象を与える作品だ。鍛金し、無数の穴を開けた銅板は細くリボン状にされ、しなやかな曲線を描きながら組み合わされている。1つ付けては離れてみて、時間を置きながら、何度も見方を変えて作り上げたという。穴を開け透かした金属板は、「鼓動」という作品にも使われている。レースのように破けるか破けないか、壊れるか壊れないかのギリギリを追求した。最近では富山県で唯一無二の一皿を提供するオーベルジュ『Cuisine régionale L’évo』やレストランからも注目を集め、作品を提供している。

右側が「鼓動」で、左側が「風」
『Cuisine régionale L’évo』で作品を提供しているアミューズ9種。レストルームには立体の作品も
ドリルを使い、金属の板を透かしていく
不定形に変化する透かしの丸が動きを感じさせる花入

新たな挑戦が生み出す「四角」

曲線を意識し、「かたち」としての意味を見出すように一叩きひと叩きに、作りたい造形を目指したのが「四角」だ。透かしのある作品が多かった釋永さんにとって、何も手を加えていない板から作品を生み出すのは挑戦ともいえる制作だったという。叩くことで描かれた曲線は、今にも動き出しそうな生命力を伝えている。色は銅、錫、ゴールド、ホワイトゴールド、真鍮の五色。特にゴールドは今まであえて使ってこなかった色だが、この形には一番よく映えるとしっくりきたのだそう。歪みやへこみなど作り上げた過程をそのまま受け入れることで魅せる、釋永さんの新たな作品となっている。

あえて叩いた跡が残るのも、作品の魅力のひとつ
ゴールドからは、とくにエネルギーが感じられ、元気が湧いてくるよう
「四角」は5色展開。光の具合やエイジングの仕方がそれぞれに違い、おもしろい