鳥獣戯画シリーズ「giga(ぎが)」誕生
1945年に創業した『中村製作所』は、ロストワックス鋳造を専門に行っています。ロストワックス鋳造とは、原型の細かな造形を忠実に再現できる鋳造方法で、精度の高さや鋳肌の美しさが際立つ製品が完成します。同社では少し前まで企業や作家から持ち込まれた製品造りだけを行ってきましたが、近年は自社で原型から企画するアイテムが増えてきました。鳥獣戯画シリーズ「giga」もそのひとつです。
絵巻物から飛び出した動物たち
鳥獣戯画は、甲・乙・丙・丁巻と呼ばれる4巻からなる墨画の絵巻物で、京都にある『高山寺』に伝わる国宝です。簡素で生き生きとした線、登場する動物たちの表情、コミカルな動きなどは、眺めているだけで楽しい気分になります。どのような目的で誰が書いたかなどは分かっていません。それだけにイマジネーションを膨らませると、一人ひとりの中に面白いストーリーが浮かんでくるはずです。人々が懸命に生きる姿や触れ合いなどは現代の人にも共感され今も愛され続けています。『中村製作所』の「giga」は、甲巻に登場する動物たちを形にしました。『高山寺』正式公認商品となっており、売り上げの一部は高山寺様の文化財保護、環境保護にお役立ていただくために納めています。
ロストワックスだから造れる小さな世界
ロストワックス鋳造は、原型を蝋(ワックス)で再現することから始まります。原型の細かな凹凸や造形を忠実に再現できるため、動物たちの豊かな表情と動きをリアルに表現することができます。原型の精緻さ、美しいラインを損なわないために、ワックスを扱う部屋は年間を通して気温が一定です。複合鋳造を行うために、小さなワックスが何個もつながった「ツリー」の形状にして仕事を進めます。
製造に近道はない
「ツリー」にした後は、粒子の細かなセラミックの粉でワックスの周りをコーティングします。何層にも粉を重ねるのですが、この作業は必ず乾燥を間に挟まねばならず、ロストワックス鋳造に時間がかかる理由にもなっています。原型を忠実に再現するための重要な工程のため、時間を短縮するのは難しいそうです。特に気温の低い冬場は、乾燥も長引きます。次の工程でスチームによって中のワックスを溶かし出し、さらに銅合金(ブロンズ)を鋳込んでいきます。
職人の精緻な技が生きる製品
型から取り出した後は、研磨の作業が始まります。小さな製品のため、一つひとつの部位を、先端が高速回転する研磨機で少しずつ削ります。細かな凸凹を美しく再現するのは時間と手間がかかる作業ですが、職人さんが丁寧に磨き上げていました。その後、ブロンズの上に高岡の伝統着色である黒染めを施しています。あえて色止めせずに仕上げているので、持つ人ごとに違った経年変化が生まれます。自分好みに育てるのも楽しそうですね。
「giga」シリーズは、甲巻でお馴染みの兎と蛙、猫、猿、狐で構成されています。玄関やリビング、書斎、デスク周りなど、いろんな場所に置いて楽しんでください。