郷土の味「生地のしおもん」
生地漁港のそばにある『魚の駅 生地』は『くろべ漁業協同組合』が運営する施設で、漁師さんや漁業関係者の力で成り立っている。水揚げされたばかりの活魚が並ぶ鮮魚コーナー、地元の加工品を集めたコーナーのほか、大人気の干物も売り場を賑わす。創業したのは2004年。もともと浜のお母さんたちが、この場所を利用して手作りの干物を直売していた。生地では、干物や一夜干しのことを「しおもん」と呼び、郷土の味として親しまれている。
漁港のそばで、生地の味を守る
漁業従事者の減少や食の多様化で「しおもん」を手作りする人は減ってきた。そんな中で『魚の駅 生地』は昔ながらの技を受け継いでいる。支配人の川辺さんが加工場を見せてくれた。ここで仕事に従事しているのは3人。魚の腹を開くのと乾燥は機械に頼るが、そのほかは手作業だ。魚の内臓を処理する包丁は魚種ごとに使い分けていて、作業を終えるたびに研ぐ。切れ味のよさと衛生管理を大切にした製造が行われている。
浜のお母さんが「しおもん」作りを支える
「しおもん」作りには、小倉律子さん(75歳)の存在が欠かせない。生地に嫁ぎ、ご主人が北海道での延縄漁をやめ、地元で漁を始めたのを機に、浜の仕事を手伝うようになった。生地では漁師の奥さんたちを「おかまり」と呼び、女性たちが網を縫ったり漁師が獲った魚を市場に並べたりしながら夫を支える。かつては「おかまり」が「しおもん」を漁協で集まって作ることがよくあり、小倉さんも30歳代のころから製造に加わるようになった。
生地の豊かな資源を活かす
「最初は何も知らなくて、魚のさばき方も、塩の加減も、ほかの『おかまり』さんたちを手伝いながら覚えたの」と小倉さん。その技が、今は『魚の駅 生地』の干物を支え、多くの人に喜ばれる存在になっている。加工場では、生地漁港に水揚げされた魚だけを干物にする。季節の魚を仕入れるだけでなく、数が半端だったのを理由に市場に並ばなかった魚を材料にすることもあり、「しおもん」は地域の資源を大切にする役目も果たしている。
素朴な旨さが、心をやさしく包み込む
現代は食卓に魚が登場することや、家庭で魚を焼くことが減ったと言われているが、魚焼きグリルやオーブンに入れて加熱するだけで調理がすむ干物は、魚料理の中でも手間がかからない。また魚種によって食感や旨みもさまざまなので、食べ比べながら好みの味を探すのも楽しい。シンプルな加工が生む素朴な味は、お酒ともご飯とも相性がいい。しみじみとしたおいしさは、忘れかけていた遠い記憶にも語りかけてくれるだろう。