ロストワックス鋳造を手がける
『中村製作所』は1945年に、高岡鋳物発祥の地である高岡市金屋町で創業しました。しばらくして郊外に会社を移し、1985年からはロストワックス鋳造を専門に行なっています。鋳物の町である高岡は、制作の分業化によって職人たちの腕が磨かれてきました。『中村製作所』のロストワックス鋳造も技術を極めることで信頼を築いたものです。企業や作家などから持ち込まれる原型は、粘土や3Dプリンターで作成された素材などさまざま。そのすべてに高度な技術を用いながら向き合っています。
精緻な造形を作り出す
ロストワックス鋳造の特長は、原型の細かな凹凸や造形を忠実に再現できることにあります。製造はワックス(蝋)を複製するための精緻なゴム型造りから始まり、型の中にワックスを流し込んで冷やし固めたら、周りを何層ものセラミックの粉でコーティングします。この作業は乾燥を合間に何度も挟むため、最低でも2~3日はかかります。その後、スチームでワックスを溶かし出し、型を焼成。溶かした金属を鋳込みます。冷ましてから型を壊して製品を取り出し、研磨するとようやく製品が出来上がります。
暮らしにまつわる新ブランド
長年にわたりOEM(他社製品の製造)のみを仕事にしてきましたが、より多くの人にロストワックス鋳造の製品に親しんでもらおうと、2019年に自社ブランド「ifuki(イフキ)」を立ち上げました。「ifuki」では、ほかの鋳造方法では真似できないロストワックスの底力を伝える高精度なアイテムを生み出しています。代表取締役の薮中映子さんは「展示会では、どんな方法で造っているのかと興味を持ってくれる人がたくさんいます」と話します。造形美と金属の美しさを備えた「ifuki」に、注目が集まっています。
透かし技法を用いた、お香たて
ブランドのコンセプトは、人々のライフスタイルに馴染むアクセサリーのような道具。使っているときもそうでないときも、空間に華やかさを与えるデザインを目指しています。これまでにプロダクトデザイナーの阿部憲嗣さんの力を借り、花器やダンベルを生み出してきました。昨年6月に発売になった「お香たて」は、金屋町や山町筋の家屋や商店に残る格子にヒントを得てデザインされました。香炉などで目にする「透かし」の技法が使われています。高岡では昔から香炉を愛用する家が多く、香を焚くことは生活の一部です。製品と地域性を結んだ物語のある「お香たて」は、技術とともに地元の文化も伝えています。
高岡鋳物のスピリットを継ぐ
「ifuki」というブランド名は、鋳造のことを職人が「ふき」と呼んでいることに由来します。「ふき」という言葉の響きは、高岡鋳物の世界で馴染みのあるものでした。さらに「ifuki」には、高岡銅器の新たな息吹になるという意志も重ねられています。
高岡鋳物は作り手の研鑽によって、400年以上もの歴史を刻んできました。暮らしに身近なものを造るアイデアは、新しい時代の鋳物文化の醸成につながっていくことでしょう。